ながれてゐるのでした。うすあかい河原なでしこの花があちこち咲いてゐました。汽車はやうやく落ちついたやうにゆつくりと走つてゐました。
向うとこつちの岸に、星のかたちとつるはしを書いた旗がたつてゐました。
「あれ、何の旗だらうね。」ジヨバンニがやつとものを云ひました。
「さあ、わからないねえ。地圖にもないんだもの。鐵の舟がおいてあるねえ。」
「ああ。」
「橋を架けるとこぢやないんでせうか。」女の子が云ひました。
「ああ、あれ工兵の旗だねえ。架橋演習をしてるんだ。けれど兵隊のかたちが見えないねえ。」
その時向う岸ちかく、少し下流の方で、見えない天の川の水がぎらつと光つて、柱のやうに高くはねあがり、どおと烈しい音がしました。
「發破だよ。發破だよ。」カムパネルラはこをどりしました。
その柱のやうになつた水は見えなくなり、大きな鮭や鱒がきらつきらつと白く腹を光らせて空中に抛り出されて、圓い輪を描いてまた水に落ちました。
ジヨバンニはもうはねあがりたいくらゐ氣持が輕くなつて云ひました。
「空の工兵大隊だ。どうだ、鱒やなんかがまるでこんなになつてはねあげられたねえ。僕こんな愉快な旅はしたことない。いいねえ。」
「あの鱒なら近くで見たらこれくらゐあるねえ、たくさんさかな居るんだな、この水の中に。」
「小さなお魚もゐるんでせうか。」女の子が話につり込まれて云ひました。
「居るんでせう。大きなのが居るんだから小さいのもゐるんでせう。けれど遠くだから、いま小さいの見えなかつたねえ。」ジヨバンニはもうすつかり機嫌が直つて、面白さうにわらつて女の子に答へました。
「あれきつと雙子のお星さまのお宮だよ。」男の子が、いきなり窓の外をさして叫びました。
右手の低い丘の上に小さな水晶ででもこさえたやうな二つのお宮がならんで立つてゐました。
「雙子のお星さまのお宮つて何だい。」
「あたし前になんべんもお母さんから聞いたわ、ちやんと小さな水晶のお宮で二つならんでゐるからきつとさうだわ。」
「はなしてごらん。雙子のお星さまが何したつての。」
「ぼくも知つてらい。雙子のお星さまが野原へ遊びにでて、からすと喧嘩したんだらう。」
「さうぢやないわよ。あのね、天の川の岸にね、おつかさんお話なすつたわ。……」
「それから彗星《はうきぼし》が、ギーギーフーギーギーフーて云つて來たねえ。」
「いやだわたあちや
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