のあかしの前を通って行くときは、その小さな豆いろの火はちょうどあいさつでもするようにぽかっと消《き》え、二人《ふたり》が過ぎて行くときまた点《つ》くのでした。
 ふりかえって見ると、さっきの十字架《じゅうじか》はすっかり小さくなってしまい、ほんとうにもうそのまま胸《むね》にもつるされそうになり、さっきの女の子や青年たちがその前の白い渚《なぎさ》にまだひざまずいているのか、それともどこか方角《ほうがく》もわからないその天上へ行ったのか、ぼんやりして見分けられませんでした。
 ジョバンニは、ああ、と深《ふか》く息《いき》しました。
「カムパネルラ、また僕《ぼく》たち二人《ふたり》きりになったねえ、どこまでもどこまでもいっしょに行こう。僕《ぼく》はもう、あのさそりのように、ほんとうにみんなの幸《さいわい》のためならば僕《ぼく》のからだなんか百ぺん灼《や》いてもかまわない」
「うん。僕《ぼく》だってそうだ」カムパネルラの眼《め》にはきれいな涙《なみだ》がうかんでいました。
「けれどもほんとうのさいわいはいったいなんだろう」
 ジョバンニが言《い》いました。
「僕《ぼく》わからない」カムパネルラ
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