ろう」と答えました。
 そのとき汽車はだんだんしずかになって、いくつかのシグナルとてんてつ器《き》の灯《あかり》を過ぎ、小さな停車場《ていしゃば》にとまりました。
 その正面《しょうめん》の青じろい時計《とけい》はかっきり第二時《だいにじ》を示《しめ》し、風もなくなり汽車もうごかず、しずかなしずかな野原のなかにその振《ふ》り子《こ》はカチッカチッと正しく時を刻《きざ》んでいくのでした。
 そしてまったくその振《ふ》り子《こ》の音のたえまを遠くの遠くの野原のはてから、かすかなかすかな旋律《せんりつ》が糸のように流《なが》れて来るのでした。
「新世界交響楽《しんせかいこうきょうがく》だわ」向《む》こうの席《せき》の姉《あね》がひとりごとのようにこっちを見ながらそっと言《い》いました。
 全《まった》くもう車の中ではあの黒服《くろふく》の丈高《たけたか》い青年も誰《だれ》もみんなやさしい夢《ゆめ》を見ているのでした。
(こんなしずかないいとこで僕《ぼく》はどうしてもっと愉快《ゆかい》になれないだろう。どうしてこんなにひとりさびしいのだろう。けれどもカムパネルラなんかあんまりひどい、僕《ぼく》
前へ 次へ
全110ページ中78ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング