なら大きいわねえ」
「くじら大きいです。子供《こども》だっているかぐらいあります」
「そうよ、あたしアラビアンナイトで見たわ」姉《あね》は細《ほそ》い銀《ぎん》いろの指輪《ゆびわ》をいじりながらおもしろそうにはなししていました。
(カムパネルラ、僕《ぼく》もう行っちまうぞ。僕《ぼく》なんか鯨《くじら》だって見たことないや)
 ジョバンニはまるでたまらないほどいらいらしながら、それでも堅《かた》く、唇《くちびる》を噛《か》んでこらえて窓《まど》の外を見ていました。その窓《まど》の外には海豚《いるか》のかたちももう見えなくなって川は二つにわかれました。そのまっくらな島《しま》のまん中に高い高いやぐらが一つ組まれて、その上に一人の寛《ゆる》い服《ふく》を着《き》て赤い帽子《ぼうし》をかぶった男が立っていました。そして両手《りょうて》に赤と青の旗《はた》をもってそらを見上げて信号《しんごう》しているのでした。
 ジョバンニが見ている間その人はしきりに赤い旗《はた》をふっていましたが、にわかに赤旗《あかはた》をおろしてうしろにかくすようにし、青い旗《はた》を高く高くあげてまるでオーケストラの指揮
前へ 次へ
全110ページ中73ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング