バンニはにわかになんとも言《い》えずかなしい気がして思わず、
「カムパネルラ、ここからはねおりて遊《あそ》んで行こうよ」とこわい顔をして言《い》おうとしたくらいでした。
ところがそのときジョバンニは川下の遠くの方に不思議《ふしぎ》なものを見ました。それはたしかになにか黒いつるつるした細長《ほそなが》いもので、あの見えない天の川の水の上に飛《と》び出してちょっと弓《ゆみ》のようなかたちに進《すす》んで、また水の中にかくれたようでした。おかしいと思ってまたよく気をつけていましたら、こんどはずっと近くでまたそんなことがあったらしいのでした。そのうちもうあっちでもこっちでも、その黒いつるつるした変《へん》なものが水から飛《と》び出して、まるく飛《と》んでまた頭から水へくぐるのがたくさん見えてきました。みんな魚のように川上へのぼるらしいのでした。
「まあ、なんでしょう。たあちゃん。ごらんなさい。まあたくさんだわね。なんでしょうあれ」
睡《ねむ》そうに眼《め》をこすっていた男の子はびっくりしたように立ちあがりました。
「なんだろう」青年も立ちあがりました。
「まあ、おかしな魚だわ、なんでしょう
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