、それではあんまり出し抜《ぬ》けだから、どうしようかと考えてふり返《かえ》って見ましたら、そこにはもうあの鳥捕《とりと》りがいませんでした。網棚《あみだな》の上には白い荷物《にもつ》も見えなかったのです。また窓《まど》の外で足をふんばってそらを見上げて鷺《さぎ》を捕《と》るしたくをしているのかと思って、急《いそ》いでそっちを見ましたが、外はいちめんのうつくしい砂子《すなご》と白いすすきの波《なみ》ばかり、あの鳥捕《とりと》りの広いせなかもとがった帽子《ぼうし》も見えませんでした。
「あの人どこへ行ったろう」カムパネルラもぼんやりそう言《い》っていました。
「どこへ行ったろう。いったいどこでまたあうのだろう。僕《ぼく》はどうしても少しあの人に物《もの》を言《い》わなかったろう」
「ああ、僕《ぼく》もそう思っているよ」
「僕《ぼく》はあの人が邪魔《じゃま》なような気がしたんだ。だから僕《ぼく》はたいへんつらい」ジョバンニはこんなへんてこな気もちは、ほんとうにはじめてだし、こんなこと今まで言《い》ったこともないと思いました。
「なんだか苹果《りんご》のにおいがする。僕《ぼく》いま苹果《りんご
前へ 次へ
全110ページ中56ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング