、もうそこに鳥捕《とりと》りの形はなくなって、かえって、
「ああせいせいした。どうもからだにちょうど合うほど稼《かせ》いでいるくらい、いいことはありませんな」というききおぼえのある声が、ジョバンニの隣《とな》りにしました。見ると鳥捕《とりと》りは、もうそこでとって来た鷺《さぎ》を、きちんとそろえて、一つずつ重《かさ》ね直《なお》しているのでした。
「どうして、あすこから、いっぺんにここへ来たんですか」ジョバンニが、なんだかあたりまえのような、あたりまえでないような、おかしな気がして問《と》いました。
「どうしてって、来ようとしたから来たんです。ぜんたいあなた方は、どちらからおいでですか」
 ジョバンニは、すぐ返事《へんじ》をしようと思いましたけれども、さあ、ぜんたいどこから来たのか、もうどうしても考えつきませんでした。カムパネルラも、顔をまっ赤にして何か思い出そうとしているのでした。
「ああ、遠くからですね」鳥捕《とりと》りは、わかったというように雑作《ぞうさ》なくうなずきました。

     九 ジョバンニの切符《きっぷ》

「もうここらは白鳥|区《く》のおしまいです。ごらんなさい。
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