た、けれども親切そうな、大人《おとな》の声が、二人《ふたり》のうしろで聞こえました。
 それは、茶いろの少しぼろぼろの外套《がいとう》を着《き》て、白い巾《きれ》でつつんだ荷物《にもつ》を、二つに分けて肩《かた》に掛《か》けた、赤髯《あかひげ》のせなかのかがんだ人でした。
「ええ、いいんです」ジョバンニは、少し肩《かた》をすぼめてあいさつしました。その人は、ひげの中でかすかに微笑《わら》いながら荷物《にもつ》をゆっくり網棚《あみだな》にのせました。ジョバンニは、なにかたいへんさびしいようなかなしいような気がして、だまって正面《しょうめん》の時計《とけい》を見ていましたら、ずうっと前の方で、硝子《ガラス》の笛《ふえ》のようなものが鳴りました。汽車はもう、しずかにうごいていたのです。カムパネルラは、車室の天井《てんじょう》を、あちこち見ていました。その一つのあかりに黒い甲虫《かぶとむし》がとまって、その影《かげ》が大きく天井《てんじょう》にうつっていたのです。赤ひげの人は、なにかなつかしそうにわらいながら、ジョバンニやカムパネルラのようすを見ていました。汽車はもうだんだん早くなって、すすき
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