二十|万年《まんねん》ぐらい前のくるみだよ。ごく新しい方さ。ここは百二十|万年前《まんねんまえ》、第三紀《だいさんき》のあとのころは海岸《かいがん》でね、この下からは貝《かい》がらも出る。いま川の流れているとこに、そっくり塩水《しおみず》が寄《よ》せたり引いたりもしていたのだ。このけものかね、これはボスといってね、おいおい、そこ、つるはしはよしたまえ。ていねいに鑿《のみ》でやってくれたまえ。ボスといってね、いまの牛《うし》の先祖《せんぞ》で、昔《むかし》はたくさんいたのさ」
「標本《ひょうほん》にするんですか」
「いや、証明《しょうめい》するに要《い》るんだ。ぼくらからみると、ここは厚《あつ》い立派《りっぱ》な地層《ちそう》で、百二十|万年《まんねん》ぐらい前にできたという証拠《しょうこ》もいろいろあがるけれども、ぼくらとちがったやつからみてもやっぱりこんな地層《ちそう》に見えるかどうか、あるいは風か水や、がらんとした空かに見えやしないかということなのだ。わかったかい。けれども、おいおい、そこもスコップではいけない。そのすぐ下に肋骨《ろっこつ》が埋《う》もれてるはずじゃないか」
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