つるした標札《ひょうさつ》が立って、向こうの渚《なぎさ》には、ところどころ、細《ほそ》い鉄《てつ》の欄干《らんかん》も植《う》えられ、木製《もくせい》のきれいなベンチも置《お》いてありました。
「おや、変《へん》なものがあるよ」カムパネルラが、不思議《ふしぎ》そうに立ちどまって、岩《いわ》から黒い細長《ほそなが》いさきのとがったくるみの実《み》のようなものをひろいました。
「くるみの実《み》だよ。そら、たくさんある。流《なが》れて来たんじゃない。岩《いわ》の中にはいってるんだ」
「大きいね、このくるみ、倍《ばい》あるね。こいつはすこしもいたんでない」
「早くあすこへ行って見よう。きっと何か掘《ほ》ってるから」
 二人《ふたり》は、ぎざぎざの黒いくるみの実《み》を持《も》ちながら、またさっきの方へ近よって行きました。左手の渚《なぎさ》には、波《なみ》がやさしい稲妻《いなずま》のように燃《も》えて寄《よ》せ、右手の崖《がけ》には、いちめん銀《ぎん》や貝殻《かいがら》でこさえたようなすすきの穂《ほ》がゆれたのです。
 だんだん近づいて見ると、一人のせいの高い、ひどい近眼鏡《きんがんきょう》を
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