ぶん走ったけれども遅《おく》れてしまったよ。ザネリもね、ずいぶん走ったけれども追《お》いつかなかった」と言《い》いました。
 ジョバンニは、
(そうだ、ぼくたちはいま、いっしょにさそって出かけたのだ)とおもいながら、
「どこかで待《ま》っていようか」と言《い》いました。するとカムパネルラは、
「ザネリはもう帰ったよ。お父さんが迎《むか》いにきたんだ」
 カムパネルラは、なぜかそう言《い》いながら、少し顔いろが青ざめて、どこか苦《くる》しいというふうでした。するとジョバンニも、なんだかどこかに、何か忘《わす》れたものがあるというような、おかしな気持《きも》ちがしてだまってしまいました。
 ところがカムパネルラは、窓《まど》から外をのぞきながら、もうすっかり元気が直《なお》って、勢《いきお》いよく言《い》いました。
「ああしまった。ぼく、水筒《すいとう》を忘《わす》れてきた。スケッチ帳《ちょう》も忘《わす》れてきた。けれどかまわない。もうじき白鳥の停車場《ていしゃば》だから。ぼく、白鳥を見るなら、ほんとうにすきだ。川の遠くを飛《と》んでいたって、ぼくはきっと見える」
 そして、カムパネルラ
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