いで出してみましたら、それは四つに折《お》ったはがきぐらいの大さ[#「大さ」はママ]の緑《みどり》いろの紙でした。車掌《しゃしょう》が手を出しているもんですからなんでもかまわない、やっちまえと思って渡《わた》しましたら、車掌《しゃしょう》はまっすぐに立ち直《なお》ってていねいにそれを開いて見ていました。そして読みながら上着《うわぎ》のぼたんやなんかしきりに直《なお》したりしていましたし燈台看守《とうだいかんしゅ》も下からそれを熱心《ねっしん》にのぞいていましたから、ジョバンニはたしかにあれは証明書《しょうめいしょ》か何かだったと考えて少し胸《むね》が熱《あつ》くなるような気がしました。
「これは三|次空間《じくうかん》の方からお持《も》ちになったのですか」車掌《しゃしょう》がたずねました。
「なんだかわかりません」もう大丈夫《だいじょうぶ》だと安心しながらジョバンニはそっちを見あげてくつくつ笑《わら》いました。
「よろしゅうございます。南十字《サウザンクロス》へ着《つ》きますのは、次《つぎ》の第《だい》三時ころになります」車掌《しゃしょう》は紙をジョバンニに渡《わた》して向《む》こうへ行きました。
カムパネルラは、その紙切れが何だったか待《ま》ちかねたというように急《いそ》いでのぞきこみました。ジョバンニも全《まった》く早く見たかったのです。ところがそれはいちめん黒い唐草《からくさ》のような模様《もよう》の中に、おかしな十ばかりの字を印刷《いんさつ》したもので、だまって見ているとなんだかその中へ吸《す》い込《こ》まれてしまうような気がするのでした。すると鳥捕《とりと》りが横からちらっとそれを見てあわてたように言《い》いました。
「おや、こいつはたいしたもんですぜ。こいつはもう、ほんとうの天上へさえ行ける切符《きっぷ》だ。天上どこじゃない、どこでもかってにあるける通行券《つうこうけん》です。こいつをお持《も》ちになれぁ、なるほど、こんな不完全《ふかんぜん》な幻想第四次《げんそうだいよじ》の銀河鉄道《ぎんがてつどう》なんか、どこまででも行けるはずでさあ、あなた方たいしたもんですね」
「なんだかわかりません」ジョバンニが赤くなって答えながら、それをまたたたんでかくしに入れました。そしてきまりが悪《わる》いのでカムパネルラと二人《ふたり》、また窓《まど》の外をながめていま
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