したが、その鳥捕《とりと》りの時々たいしたもんだというように、ちらちらこっちを見ているのがぼんやりわかりました。
「もうじき鷲《わし》の停車場《ていしゃじょう》だよ」カムパネルラが向《む》こう岸《ぎし》の、三つならんだ小さな青じろい三角標《さんかくひょう》と、地図とを見くらべて言《い》いました。
ジョバンニはなんだかわけもわからずに、にわかにとなりの鳥捕《とりと》りがきのどくでたまらなくなりました。鷺《さぎ》をつかまえてせいせいしたとよろこんだり、白いきれでそれをくるくる包《つつ》んだり、ひとの切符《きっぷ》をびっくりしたように横目《よこめ》で見てあわててほめだしたり、そんなことを一々考えていると、もうその見ず知らずの鳥捕《とりと》りのために、ジョバンニの持《も》っているものでも食べるものでもなんでもやってしまいたい、もうこの人のほんとうの幸《さいわい》になるなら、自分があの光る天の川の河原《かわら》に立って百年つづけて立って鳥をとってやってもいいというような気がして、どうしてももう黙《だま》っていられなくなりました。ほんとうにあなたのほしいものはいったい何ですかと訊《き》こうとして、それではあんまり出し抜《ぬ》けだから、どうしようかと考えてふり返《かえ》って見ましたら、そこにはもうあの鳥捕《とりと》りがいませんでした。網棚《あみだな》の上には白い荷物《にもつ》も見えなかったのです。また窓《まど》の外で足をふんばってそらを見上げて鷺《さぎ》を捕《と》るしたくをしているのかと思って、急《いそ》いでそっちを見ましたが、外はいちめんのうつくしい砂子《すなご》と白いすすきの波《なみ》ばかり、あの鳥捕《とりと》りの広いせなかもとがった帽子《ぼうし》も見えませんでした。
「あの人どこへ行ったろう」カムパネルラもぼんやりそう言《い》っていました。
「どこへ行ったろう。いったいどこでまたあうのだろう。僕《ぼく》はどうしても少しあの人に物《もの》を言《い》わなかったろう」
「ああ、僕《ぼく》もそう思っているよ」
「僕《ぼく》はあの人が邪魔《じゃま》なような気がしたんだ。だから僕《ぼく》はたいへんつらい」ジョバンニはこんなへんてこな気もちは、ほんとうにはじめてだし、こんなこと今まで言《い》ったこともないと思いました。
「なんだか苹果《りんご》のにおいがする。僕《ぼく》いま苹果《りんご
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