あれが名高いアルビレオの観測所《かんそくじょ》です」
窓《まど》の外の、まるで花火でいっぱいのような、あまの川のまん中に、黒い大きな建物《たてもの》が四|棟《むね》ばかり立って、その一つの平屋根《ひらやね》の上に、眼《め》もさめるような、青宝玉《サファイア》と黄玉《トパーズ》の大きな二つのすきとおった球《たま》が、輪《わ》になってしずかにくるくるとまわっていました。黄いろのがだんだん向《む》こうへまわって行って、青い小さいのがこっちへ進《すす》んで来、まもなく二つのはじは、重《かさ》なり合って、きれいな緑《みどり》いろの両面凸《りょうめんとつ》レンズのかたちをつくり、それもだんだん、まん中がふくらみだして、とうとう青いのは、すっかりトパーズの正面《しょうめん》に来ましたので、緑《みどり》の中心と黄いろな明るい環《わ》とができました。それがまただんだん横《よこ》へ外《そ》れて、前のレンズの形を逆《ぎゃく》にくり返《かえ》し、とうとうすっとはなれて、サファイアは向《む》こうへめぐり、黄いろのはこっちへ進《すす》み、またちょうどさっきのようなふうになりました。銀河《ぎんが》の、かたちもなく音もない水にかこまれて、ほんとうにその黒い測候所《そっこうじょ》が、睡《ねむ》っているように、しずかによこたわったのです。
「あれは、水の速《はや》さをはかる器械《きかい》です。水も……」鳥捕《とりと》りが言《い》いかけたとき、
「切符《きっぷ》を拝見《はいけん》いたします」三人の席《せき》の横《よこ》に、赤い帽子《ぼうし》をかぶったせいの高い車掌《しゃしょう》が、いつかまっすぐに立っていて言《い》いました。鳥捕《とりと》りは、だまってかくしから、小さな紙きれを出しました。車掌《しゃしょう》はちょっと見て、すぐ眼《め》をそらして(あなた方のは?)というように、指《ゆび》をうごかしながら、手をジョバンニたちの方へ出しました。
「さあ」ジョバンニは困《こま》って、もじもじしていましたら、カムパネルラはわけもないというふうで、小さな鼠《ねずみ》いろの切符《きっぷ》を出しました。ジョバンニは、すっかりあわててしまって、もしか上着《うわぎ》のポケットにでも、はいっていたかとおもいながら、手を入れてみましたら、何か大きなたたんだ紙きれにあたりました。こんなものはいっていたろうかと思って、急《いそ》
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