来たってしかたがねえや、ばさばさのマントを着《き》て脚《あし》と口との途方《とほう》もなく細《ほそ》い大将《たいしょう》へやれって、こう言《い》ってやりましたがね、はっは」
すすきがなくなったために、向《む》こうの野原から、ぱっとあかりが射《さ》して来ました。
「鷺《さぎ》の方はなぜ手数《てすう》なんですか」カムパネルラは、さっきから、訊《き》こうと思っていたのです。
「それはね、鷺《さぎ》をたべるには」鳥捕《とりと》りは、こっちに向《む》き直《なお》りました。「天の川の水あかりに、十日もつるしておくかね、そうでなけぁ、砂《すな》に三、四日うずめなけぁいけないんだ。そうすると、水銀《すいぎん》がみんな蒸発《じょうはつ》して、たべられるようになるよ」
「こいつは鳥じゃない。ただのお菓子《かし》でしょう」やっぱりおなじことを考えていたとみえて、カムパネルラが、思い切ったというように、尋《たず》ねました。鳥捕《とりと》りは、何かたいへんあわてたふうで、
「そうそう、ここで降《お》りなけぁ」と言《い》いながら、立って荷物《にもつ》をとったと思うと、もう見えなくなっていました。
「どこへ行ったんだろう」二人《ふたり》は顔を見合わせましたら、燈台守《とうだいもり》は、にやにや笑《わら》って、少し伸《の》びあがるようにしながら、二人の横《よこ》の窓《まど》の外をのぞきました。二人《ふたり》もそっちを見ましたら、たったいまの鳥捕《とりと》りが、黄いろと青じろの、うつくしい燐光《りんこう》を出す、いちめんのかわらははこぐさの上に立って、まじめな顔をして両手《りょうて》をひろげて、じっとそらを見ていたのです。
「あすこへ行ってる。ずいぶん奇体《きたい》だねえ。きっとまた鳥をつかまえるとこだねえ。汽車が走って行かないうちに、早く鳥がおりるといいな」と言《い》ったとたん、がらんとした桔梗《ききょう》いろの空から、さっき見たような鷺《さぎ》が、まるで雪の降《ふ》るように、ぎゃあぎゃあ叫《さけ》びながら、いっぱいに舞《ま》いおりて来ました。するとあの鳥捕《とりと》りは、すっかり注文《ちゅうもん》通りだというようにほくほくして、両足《りょうあし》をかっきり六十|度《ど》に開いて立って、鷺《さぎ》のちぢめて降《お》りて来る黒い脚《あし》を両手《りょうて》で片《かた》っぱしから押《おさ》えて、布《
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