か」
「ええ、毎日|注文《ちゅうもん》があります。しかし雁《がん》の方が、もっと売れます。雁《がん》の方がずっと柄《がら》がいいし、第一《だいいち》手数《てすう》がありませんからな。そら」鳥捕《とりと》りは、また別《べつ》の方の包《つつ》みを解《と》きました。すると黄と青じろとまだらになって、なにかのあかりのようにひかる雁《がん》が、ちょうどさっきの鷺《さぎ》のように、くちばしをそろえて、少しひらべったくなって、ならんでいました。
「こっちはすぐたべられます。どうです、少しおあがりなさい」鳥捕《とりと》りは、黄いろの雁《がん》の足を、軽《かる》くひっぱりました。するとそれは、チョコレートででもできているように、すっときれいにはなれました。
「どうです。すこしたべてごらんなさい」鳥捕《とりと》りは、それを二つにちぎってわたしました。ジョバンニは、ちょっとたべてみて、
(なんだ、やっぱりこいつはお菓子《かし》だ。チョコレートよりも、もっとおいしいけれども、こんな雁《がん》が飛《と》んでいるもんか。この男は、どこかそこらの野原の菓子屋《かしや》だ。けれどもぼくは、このひとをばかにしながら、この人のお菓子《かし》をたべているのは、たいへんきのどくだ)とおもいながら、やっぱりぽくぽくそれをたべていました。
「も少しおあがりなさい」鳥捕《とりと》りがまた包《つつ》みを出しました。ジョバンニは、もっとたべたかったのですけれども、
「ええ、ありがとう」といって遠慮《えんりょ》しましたら、鳥捕《とりと》りは、こんどは向《む》こうの席《せき》の、鍵《かぎ》をもった人に出しました。
「いや、商売《しょうばい》ものをもらっちゃすみませんな」その人は、帽子《ぼうし》をとりました。
「いいえ、どういたしまして。どうです、今年の渡《わた》り鳥《どり》の景気《けいき》は」
「いや、すてきなもんですよ。一昨日《おととい》の第二限《だいにげん》ころなんか、なぜ燈台《とうだい》の灯《ひ》を、規則以外《きそくいがい》に間(一時空白)させるかって、あっちからもこっちからも、電話で故障《こしょう》が来ましたが、なあに、こっちがやるんじゃなくて、渡《わた》り鳥《どり》どもが、まっ黒にかたまって、あかしの前を通るのですからしかたありませんや、わたしぁ、べらぼうめ、そんな苦情《くじょう》は、おれのとこへ持《も》って
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