授業《じゅぎょう》のとき先生がかわるがわる教室へ持《も》って行くよ」
「お父さんはこの次《つぎ》はおまえにラッコの上着《うわぎ》をもってくるといったねえ」
「みんながぼくにあうとそれを言《い》うよ。ひやかすように言《い》うんだ」
「おまえに悪口《わるくち》を言《い》うの」
「うん、けれどもカムパネルラなんか決《けっ》して言《い》わない。カムパネルラはみんながそんなことを言《い》うときはきのどくそうにしているよ」
「カムパネルラのお父さんとうちのお父さんとは、ちょうどおまえたちのように小さいときからのお友達《ともだち》だったそうだよ」
「ああだからお父さんはぼくをつれてカムパネルラのうちへもつれて行ったよ。あのころはよかったなあ。ぼくは学校から帰る途中《とちゅう》たびたびカムパネルラのうちに寄《よ》った。カムパネルラのうちにはアルコールランプで走る汽車があったんだ。レールを七つ組み合わせるとまるくなってそれに電柱《でんちゅう》や信号標《しんごうひょう》もついていて信号標《しんごうひょう》のあかりは汽車が通るときだけ青くなるようになっていたんだ。いつかアルコールがなくなったとき石油《せきゆ》をつかったら、缶《かん》がすっかりすすけたよ」
「そうかねえ」
「いまも毎朝新聞をまわしに行くよ。けれどもいつでも家じゅうまだしいんとしているからな」
「早いからねえ」
「ザウエルという犬がいるよ。しっぽがまるで箒《ほうき》のようだ。ぼくが行くと鼻《はな》を鳴らしてついてくるよ。ずうっと町の角《かど》までついてくる。もっとついてくることもあるよ。今夜はみんなで烏瓜《からすうり》のあかりを川へながしに行くんだって。きっと犬もついて行くよ」
「そうだ。今晩《こんばん》は銀河《ぎんが》のお祭《まつ》りだねえ」
「うん。ぼく牛乳《ぎゅうにゅう》をとりながら見てくるよ」
「ああ行っておいで。川へははいらないでね」
「ああぼく岸《きし》から見るだけなんだ。一時間で行ってくるよ」
「もっと遊《あそ》んでおいで。カムパネルラさんといっしょなら心配《しんぱい》はないから」
「ああきっといっしょだよ。お母さん、窓をしめておこうか」
「ああ、どうか。もう涼《すず》しいからね」
 ジョバンニは立って窓《まど》をしめ、お皿《さら》やパンの袋《ふくろ》をかたづけると勢《いきお》いよく靴《くつ》をはいて、
「では
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