……
……いつか向ふが人の分子を喪くしてゐる。皮を一枚脱いだのだ。小さな天狗のやうでもある。それから豺のトーテムだ。頬が黄いろに光ってゐる。白い後光も出して来た。こゝで折れては何にもならん。断じてその眼を克服せよ、たかゞ二つの節穴だ。もっともたゞ節穴〔よ〕りは、むしろ二つの覗き窓だ。何だかわたしが、たった一人、居ずまゐ正してこゝに座り、やつらの仲間がかはるがはる、その二っつの小窓から、わたしを覗いてゐるやうだ。……あゝ何のことだ 縁起でもない。人の眼などといふものは、それを剔出して見れば、たかゞ小さな暗函だ。奥行二寸もあるんでない。さうかと云ってあ〔ゝ〕いふ眼付き、厭な眼付は打ち消し得ない。こんな眼を遺伝した、父祖はいったい何物だらう。かういふ意志や眼といふものが、一代二代でできはしない。代々糺罪の吏ででもあるか、或は逆に苛政の下、〔喘〕いだ民の末でもあるか。今は対等、正しく今は対等だ。まだ見るか。まだ見るか。尚且つ見るか。対等だ。瞬だけは仕方ない。
尤も向ふはそれをしない。年齢《とし》の相違が争はれん。あゝ今朝いつもの肉汁を、呑むひまもなく来てしまった。前総裁は必ず飲んだ。出て来ると
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