忘れてはいけない。
それではもう日中だからみんなは立ってやすみ、食事《しょくじ》をしてよろしい。」
アラムハラドは礼《れい》をうけ自分もしずかに立ちあがりました。そして自分の室に帰る途中《とちゅう》ふとまた眼をつぶりました。さっきの美しい青い景色《けしき》がまたはっきりと見えました。そしてその中にはねのような軽《かる》い黄金いろの着物《きもの》を着た人が四人まっすぐに立っているのを見ました。
アラムハラドは急《いそ》いで眼をひらいて少し首をかたむけながら自分の室に入りました。
二
アラムハラドは子供らにかこまれながらしずかに林へはいって行きました。
つめたいしめった空気がしんとみんなのからだにせまったとき子供らは歓呼《かんこ》の声をあげました。そんなに樹《き》は高く深《ふか》くしげっていたのです。それにいろいろの太さの蔓《つる》がくしゃくしゃにその木をまといみちも大へんに暗《くら》かったのです。
ただその梢《こずえ》のところどころ物凄《ものすご》いほど碧《あお》いそらが一きれ二きれやっとのぞいて見えるきり、そんなに林がしげっていればそれほどみんなはよろこびました。
大臣《だいじん》の子のタルラはいちばんさきに立って鳥を見てはばあと両手《りょうて》をあげて追《お》い栗鼠《りす》を見つけては高く叫《さけ》んでおどしました。走ったりまた停《とま》ったりまるで夢中《むちゅう》で進《すす》みました。
みんなはかわるがわるいろいろなことをアラムハラドにたずねました。アラムハラドは時々はまだ一つの答をしないうちにも一つの返事《へんじ》をしなければなりませんでした。
セララバアドは小さな革《かわ》の水入れを肩《かた》からつるして首を垂《た》れてみんなの問《とい》やアラムハラドの答をききながらいちばんあとから少し笑《わら》ってついて来ました。
林はだんだん深《ふか》くなりかしの木やくすの木や空も見えないようでした。
そのときサマシャードという小さな子が一本の高いなつめの木を見つけて叫びました。
「なつめの木だぞ。なつめの木だ。とれないかなあ。」
みんなもアラムハラドも一度《いちど》にその高い梢を見上げました。アラムハラドは云《い》いました。
「あの木は高くてとどかない。私どもはその実《み》をとることができないのだ。けれどもおまえたちは名高いヴェー
前へ
次へ
全8ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング