ホモイはあきれていましたが、馬があんまり泣《な》くものですから、ついつりこまれてちょっと鼻《はな》がせらせらしました。馬は風呂敷《ふろしき》ぐらいある浅黄《あさぎ》のはんけちを出して涙《なみだ》をふいて申《もう》しました。
 「あなた様《さま》は私《わたし》どもの恩人《おんじん》でございます。どうかくれぐれもおからだを大事《だいじ》になされてくだされませ」そして馬はていねいにおじぎをして向《む》こうへ歩いて行きました。
 ホモイはなんだかうれしいようなおかしいような気がしてぼんやり考えながら、にわとこの木の影《かげ》に行きました。するとそこに若《わか》い二|疋《ひき》の栗鼠《りす》が、仲《なか》よく白いお餠《もち》をたべておりましたがホモイの来たのを見ると、びっくりして立ちあがって急《いそ》いできもののえりを直《なお》し、目を白黒くして餠《もち》をのみ込《こ》もうとしたりしました。
 ホモイはいつものように、
 「りすさん。お早う」とあいさつをしましたが、りすは二|疋《ひき》とも堅《かた》くなってしまって、いっこうことばも出ませんでした。ホモイはあわてて、
 「りすさん。今日もいっしょにどこか遊《あそ》びに行きませんか」と言《い》いますと、りすはとんでもないと言《い》うように目をまん円にして顔を見合わせて、それからいきなり向《む》こうを向《む》いて一生けん命《めい》逃《に》げて行ってしまいました。
 ホモイはあきれてしまいました。そして顔色を変《か》えてうちへ戻《もど》って来て、
 「おっかさん。なんだかみんな変《へん》なぐあいですよ。りすさんなんか、もう僕《ぼく》を仲間《なかま》はずれにしましたよ」と言《い》いますと兎《うさぎ》のおっかさんが笑《わら》って答えました。
 「それはそうですよ。お前はもう立派《りっぱ》な人になったんだから、りすなんか恥《は》ずかしいのです。ですからよく気をつけてあとで笑《わら》われないようにするんですよ」
 ホモイが言《い》いました。
 「おっかさん。それは大丈夫《だいじょうぶ》ですよ。それなら僕《ぼく》はもう大将《たいしょう》になったんですか」
 おっかさんもうれしそうに、
 「まあそうです」と申《もう》しました。
 ホモイが悦《よろこ》んで踊《おど》りあがりました。
 「うまいぞ。うまいぞ。もうみんな僕《ぼく》のてしたなんだ。狐《きつね》なんかもうこわくもなんともないや。おっかさん。僕《ぼく》ね、りすさんを少将《しょうしょう》にするよ。馬はね、馬は大佐《たいさ》にしてやろうと思うんです」
 おっかさんが笑《わら》いながら、
 「そうだね、けれどもあんまりいばるんじゃありませんよ」と申《もう》しました。
 ホモイは、
 「大丈夫《だいじょうぶ》ですよ。おっかさん、僕《ぼく》ちょっと外へ行って来ます」と言《い》ったままぴょんと野原へ飛《と》び出しました。するとすぐ目の前をいじわるの狐《きつね》が風のように走って行きます。
 ホモイはぶるぶる顫《ふる》えながら思い切って叫《さけ》んでみました。
 「待《ま》て。狐《きつね》。僕《ぼく》は大将《たいしょう》だぞ」
 狐《きつね》がびっくりしてふり向《む》いて顔色を変《か》えて申《もう》しました。
 「へい。存《ぞん》じております。へい、へい。何かご用でございますか」
 ホモイができるくらい威勢《いせい》よく言《い》いました。
 「お前はずいぶん僕《ぼく》をいじめたな。今度《こんど》は僕《ぼく》のけらいだぞ」
 狐《きつね》は卒倒《そっとう》しそうになって、頭に手をあげて答えました。
 「へい、お申《もう》し訳《わけ》もございません。どうかお赦《ゆる》しをねがいます」
 ホモイはうれしさにわくわくしました。
 「特別《とくべつ》に許《ゆる》してやろう。お前を少尉《しょうい》にする。よく働《はたら》いてくれ」
 狐《きつね》が悦《よろこ》んで四遍《よんへん》ばかり廻《まわ》りました。
 「へいへい。ありがとう存《ぞん》じます。どんな事《こと》でもいたします。少しとうもろこしを盗《ぬす》んで参《まい》りましょうか」
 ホモイが申《もう》しました。
 「いや、それは悪《わる》いことだ。そんなことをしてはならん」
 狐《きつね》は頭を掻《か》いて申《もう》しました。
 「へいへい。これからは決《けっ》していたしません。なんでもおいいつけを待《ま》っていたします」
 ホモイは言《い》いました。
 「そうだ。用があったら呼《よ》ぶからあっちへ行っておいで」狐《きつね》はくるくるまわっておじぎをして向《む》こうへ行ってしまいました。
 ホモイはうれしくてたまりません。野原を行ったり来たりひとりごとを言《い》ったり、笑《わら》ったりさまざまの楽《たの》しいことを
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