考えているうちに、もうお日様《ひさま》が砕《くだ》けた鏡《かがみ》のように樺《かば》の木の向《む》こうに落《お》ちましたので、ホモイも急《いそ》いでおうちに帰りました。
兎《うさぎ》のおとうさまももう帰っていて、その晩《ばん》は様々《さまざま》のご馳走《ちそう》がありました。ホモイはその晩《ばん》も美《うつく》しい夢《ゆめ》を見ました。
*
次の日ホモイは、お母さんに言《い》いつけられて笊《ざる》を持《も》って野原に出て、鈴蘭《すずらん》の実《み》を集《あつ》めながらひとりごとを言《い》いました。
「ふん、大将《たいしょう》が鈴蘭《すずらん》の実《み》を集《あつ》めるなんておかしいや。誰《だれ》かに見つけられたらきっと笑《わら》われるばかりだ。狐《きつね》が来るといいがなあ」
すると足の下がなんだかもくもくしました。見るとむぐらが土をくぐってだんだん向《む》こうへ行こうとします。ホモイは叫《さけ》びました。
「むぐら、むぐら、むぐらもち、お前は僕《ぼく》の偉《えら》くなったことを知ってるかい」
むぐらが土の中で言《い》いました。
「ホモイさんでいらっしゃいますか。よく存《ぞん》じております」
ホモイは大いばりで言《い》いました。
「そうか。そんならいいがね。僕《ぼく》、お前を軍曹《ぐんそう》にするよ。そのかわり少し働《はたら》いてくれないかい」
むぐらはびくびくして尋《たず》ねました。
「へいどんなことでございますか」
ホモイがいきなり、
「鈴蘭《すずらん》の実《み》を集《あつ》めておくれ」と言《い》いました。
むぐらは土の中で冷汗《ひやあせ》をたらして頭をかきながら、
「さあまことに恐《おそ》れ入りますが私は明るい所《ところ》の仕事《しごと》はいっこう無調法《ぶちょうほう》でございます」と言《い》いました。
ホモイはおこってしまって、
「そうかい。そんならいいよ。頼《たの》まないから。あとで見ておいで。ひどいよ」と叫《さけ》びました。
むぐらは、
「どうかご免《めん》をねがいます。私は長くお日様《ひさま》を見ますと死《し》んでしまいますので」としきりにおわびをします。
ホモイは足をばたばたして、
「いいよ。もういいよ。だまっておいで」と言《い》いました。
その時|向《む》こうのにわとこの陰《かげ》からりすが五|疋《ひき》ちょろちょろ出て参《まい》りました。そしてホモイの前にぴょこぴょこ頭を下げて申《もう》しました。
「ホモイさま、どうか私どもに鈴蘭《すずらん》の実《み》をお採《と》らせくださいませ」
ホモイが、
「いいとも。さあやってくれ。お前たちはみんな僕《ぼく》の少将《しょうしょう》だよ」
りすがきゃっきゃっ悦《よろこ》んで仕事《しごと》にかかりました。
この時|向《む》こうから仔馬《こうま》が六|疋《ぴき》走って来てホモイの前にとまりました。その中のいちばん大きなのが、
「ホモイ様《さま》。私どもにも何かおいいつけをねがいます」と申《もう》しました。ホモイはすっかり悦《よろこ》んで、
「いいとも。お前たちはみんな僕《ぼく》の大佐《たいさ》にする。僕《ぼく》が呼《よ》んだら、きっとかけて来ておくれ」といいました。仔馬《こうま》も悦《よろこ》んではねあがりました。
むぐらが土の中で泣《な》きながら申《もう》しました。
「ホモイさま、どうか私にもできるようなことをおいいつけください。きっと立派《りっぱ》にいたしますから」
ホモイはまだおこっていましたので、
「お前なんかいらないよ。今に狐《きつね》が来たらお前たちの仲間《なかま》をみんなひどい目にあわしてやるよ。見ておいで」と足ぶみをして言《い》いました。
土の中ではひっそりとして声もなくなりました。
それからりすは、夕方《ゆうがた》までに鈴蘭《すずらん》の実《み》をたくさん集《あつ》めて、大騒《おおさわ》ぎをしてホモイのうちへ運《はこ》びました。
おっかさんが、その騒《さわ》ぎにびっくりして出て見て言《い》いました。
「おや、どうしたの、りすさん」
ホモイが横《よこ》から口を出して、
「おっかさん。僕《ぼく》の腕《うで》まえをごらん。まだまだ僕《ぼく》はどんな事《こと》でもできるんですよ」と言《い》いました。兎《うさぎ》のお母さんは返事《へんじ》もなく黙《だま》って考えておりました。
するとちょうど兎《うさぎ》のお父さんが戻《もど》って来て、その景色《けしき》をじっと見てから申《もう》しました。
「ホモイ、お前は少し熱《ねつ》がありはしないか。むぐらをたいへんおどしたそうだな。むぐらの家《うち》では、もうみんなきちがいのようになって泣《な》いてるよ。それにこんなにたくさんの実《み
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