んな早くからねてしまいました。
       *
 夜中にホモイは眼《め》をさましました。
 そしてこわごわ起《お》きあがって、そっと枕《まくら》もとの貝《かい》の火を見ました。貝《かい》の火は、油《あぶら》の中で魚の眼玉《めだま》のように銀色《ぎんいろ》に光っています。もう赤い火は燃《も》えていませんでした。
 ホモイは大声で泣《な》き出しました。
 兎《うさぎ》のお父さんやお母さんがびっくりして起《お》きてあかりをつけました。
 貝《かい》の火はまるで鉛《なまり》の玉のようになっています。ホモイは泣《な》きながら狐《きつね》の網《あみ》のはなしをお父さんにしました。
 お父さんはたいへんあわてて急《いそ》いで着物《きもの》をきかえながら言《い》いました。
 「ホモイ。お前は馬鹿《ばか》だぞ。俺《おれ》も馬鹿《ばか》だった。お前はひばりの子供《こども》の命《いのち》を助《たす》けてあの玉をもらったのじゃないか。それをお前は一昨日《おととい》なんか生まれつきだなんて言《い》っていた。さあ、野原へ行こう。狐《きつね》がまだ網《あみ》を張《は》っているかもしれない。お前はいのちがけで狐《きつね》とたたかうんだぞ。もちろんおれも手伝《てつだ》う」
 ホモイは泣《な》いて立ちあがりました。兎《うさぎ》のお母さんも泣《な》いて二人のあとを追《お》いました。
 霧《きり》がポシャポシャ降《ふ》って、もう夜があけかかっています。
 狐《きつね》はまだ網《あみ》をかけて、樺《かば》の木の下にいました。そして三人を見て口を曲《ま》げて大声でわらいました。ホモイのお父さんが叫《さけ》びました。
 「狐《きつね》。お前はよくもホモイをだましたな。さあ決闘《けっとう》をしろ」
 狐《きつね》が実《じつ》に悪党《あくとう》らしい顔をして言《い》いました。
 「へん。貴様《きさま》ら三|疋《びき》ばかり食い殺《ころ》してやってもいいが、俺《おれ》もけがでもするとつまらないや。おれはもっといい食べものがあるんだ」
 そして函《はこ》をかついで逃《に》げ出そうとしました。
 「待《ま》てこら」とホモイのお父さんがガラスの箱《はこ》を押《おさ》えたので、狐《きつね》はよろよろして、とうとう函《はこ》を置《お》いたまま逃《に》げて行ってしまいました。
 見ると箱《はこ》の中に鳥が百|疋《ぴき》ばかり、
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