けとって眼鏡《めがね》をはずして、よくよく調《しら》べてから言《い》いました。
 「お前はこんなものを狐《きつね》にもらったな。これは盗《ぬす》んで来たもんだ。こんなものをおれは食べない」そしておとうさんは、も一つホモイのお母さんにあげようと持《も》っていた分も、いきなり取《と》りかえして自分のといっしょに土に投《な》げつけてむちゃくちゃにふみにじってしまいました。
 ホモイはわっと泣《な》きだしました。兎《うさぎ》のお母さんもいっしょに泣《な》きました。
 お父さんがあちこち歩きながら、
 「ホモイ、お前はもう駄目《だめ》だ。玉を見てごらん。もうきっと砕《くだ》けているから」と言《い》いました。
 お母さんが泣《な》きながら函《はこ》を出しました。玉はお日さまの光を受《う》けて、まるで天上に昇《のぼ》って行きそうに美《うつく》しく燃《も》えました。
 お父さんは玉をホモイに渡《わた》してだまってしまいました。ホモイも玉を見ていつか涙《なみだ》を忘《わす》れてしまいました。
       *
 次《つぎ》の日ホモイはまた野原に出ました。
 狐《きつね》が走って来てすぐ角《かく》パンを三つ渡《わた》しました。ホモイはそれを急《いそ》いで台所《だいどころ》の棚《たな》の上に載《の》せてまた野原に来《き》ますと狐《きつね》がまだ待《ま》っていて言《い》いました。
 「ホモイさん。何かおもしろいことをしようじゃありませんか」ホモイが、
 「どんなこと?」とききますと狐《きつね》が言《い》いました。
 「むぐらを罰《ばつ》にするのはどうです。あいつは実《じつ》にこの野原の毒《どく》むしですぜ。そしてなまけものですぜ。あなたが一|遍《ぺん》許《ゆる》すって言《い》ったのなら、今日は私だけでひとつむぐらをいじめますから、あなたはだまって見ておいでなさい。いいでしょう」
 ホモイは、
 「うん、毒《どく》むしなら少しいじめてもよかろう」と言《い》いました。
 狐《きつね》は、しばらくあちこち地面《じめん》を嗅《か》いだり、とんとんふんでみたりしていましたが、とうとう一つの大きな石を起《お》こしました。するとその下にむぐらの親子が八|疋《ぴき》かたまってぶるぶるふるえておりました。狐《きつね》が、
 「さあ、走れ、走らないと、噛《か》み殺《ころ》すぞ」といって足をどんどんしました。む
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