ぐらの親子は、
 「ごめんください。ごめんください」と言《い》いながら逃《に》げようとするのですが、みんな目が見えない上に足がきかないものですからただ草を掻《か》くだけです。
 いちばん小さな子はもうあおむけになって気絶《きぜつ》したようです。狐《きつね》ははがみをしました。ホモイも思わず、
 「シッシッ」と言《い》って足を鳴らしました。その時、
 「こらっ、何をする」と言《い》う大きな声がして、狐《きつね》がくるくると四|遍《へん》ばかりまわって、やがていちもくさんに逃《に》げました。
 見るとホモイのお父さんが来ているのです。
 お父さんは、急《いそ》いでむぐらをみんな穴《あな》に入れてやって、上へもとのように石をのせて、それからホモイの首《くび》すじをつかんで、ぐんぐんおうちへ引いて行きました。
 おっかさんが出て来て泣《な》いておとうさんにすがりました。お父さんが言《い》いました。
 「ホモイ。お前はもう駄目《だめ》だぞ。今日こそ貝《かい》の火は砕《くだ》けたぞ。出して見ろ」
 お母さんが涙《なみだ》をふきながら函《はこ》を出して来ました。お父さんは函《はこ》の蓋《ふた》を開《ひら》いて見ました。
 するとお父さんはびっくりしてしまいました。貝《かい》の火が今日ぐらい美《うつく》しいことはまだありませんでした。それはまるで赤や緑《みどり》や青や様々《さまざま》の火がはげしく戦争《せんそう》をして、地雷火《じらいか》をかけたり、のろしを上げたり、またいなずまがひらめいたり、光の血《ち》が流《なが》れたり、そうかと思うと水色の焔《ほのお》が玉の全体《ぜんたい》をパッと占領《せんりょう》して、今度《こんど》はひなげしの花や、黄色のチュウリップ、薔薇《ばら》やほたるかずらなどが、一面《いちめん》風にゆらいだりしているように見えるのです。
 兎《うさぎ》のお父さんは黙《だま》って玉をホモイに渡《わた》しました。ホモイはまもなく涙《なみだ》も忘《わす》れて貝《かい》の火をながめてよろこびました。
 おっかさんもやっと安心《あんしん》して、おひるのしたくをしました。
 みんなはすわって角《かく》パンをたべました。
 お父さんが言《い》いました。
 「ホモイ。狐《きつね》には気をつけないといけないぞ」
 ホモイが申《もう》しました。
 「お父さん、大丈夫《だいじょうぶ》です
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