狐《きつね》はまるで風のように走って行きました。
ホモイはそこで高く叫《さけ》びました。
「むぐら、むぐら、むぐらもち。もうお前は許《ゆる》してあげるよ。泣《な》かなくてもいいよ」
土の中はしんとしておりました。
狐《きつね》がまた向こうから走って来ました。そして、
「さあおあがりなさい。これは天国の天ぷらというもんですぜ。最上等《さいじょうとう》のところです」と言《い》いながら盗《ぬす》んで来た角《かく》パンを出しました。
ホモイはちょっとたべてみたら、実《じつ》にどうもうまいのです。そこで狐《きつね》に、
「こんなものどの木にできるのだい」とたずねますと狐《きつね》が横《よこ》を向《む》いて一つ「ヘン」と笑《わら》ってから申《もう》しました。
「台所《だいどころ》という木ですよ。ダアイドコロという木ね。おいしかったら毎日|持《も》って来てあげましょう」
ホモイが申《もう》しました。
「それでは毎日きっと三つずつ持《も》って来ておくれ。ね」
狐《きつね》がいかにもよくのみこんだというように目をパチパチさせて言《い》いました。
「へい。よろしゅうございます。そのかわり私の鶏《とり》をとるのを、あなたがとめてはいけませんよ」
「いいとも」とホモイが申《もう》しました。
すると狐《きつね》が、
「それでは今日の分、もう二つ持《も》って来ましょう」と言《い》いながらまた風のように走って行きました。
ホモイはそれをおうちに持《も》って行ってお父さんやお母さんにあげる時の事《こと》を考えていました。
お父さんだって、こんなおいしいものは知らないだろう。僕《ぼく》はほんとうに孝行《こうこう》だなあ。
狐《きつね》が角《かく》パンを二つくわえて来てホモイの前に置《お》いて、急《いそ》いで「さよなら」と言《い》いながらもう走っていってしまいました。ホモイは、
「狐《きつね》はいったい毎日何をしているんだろう」とつぶやきながらおうちに帰りました。
今日はお父さんとお母さんとが、お家の前で鈴蘭《すずらん》の実《み》を天日《てんぴ》にほしておりました。
ホモイが、
「お父さん。いいものを持《も》った来ましたよ。あげましょうか。まあちょっとたべてごらんなさい」と言《い》いながら角《かく》パンを出しました。
兎《うさぎ》のお父さんはそれを受《う》
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