わ》らせて杏《あんず》の実《み》を出しておやりになりながら、しずかにおたずねなさいました。
(お前はさっきどうして泣いたの。)
(だってお父さん。みんなが仔馬をむりに連れて行くんだもの。)
(馬は仕方《しかた》ない。もう大きくなったからこれから独《ひと》りで働《はた》らくんだ。)
(あの馬はまだ乳を呑んでいたよ。)
(それはそばに置いてはいつまでも甘《あま》えるから仕方ない。)
(だってお父さん。みんながあのお母さんの馬にも子供の馬にもあとで荷物を一杯つけてひどい山を連れて行くんだ。それから食べ物がなくなると殺《ころ》して食べてしまうんだろう。)
 須利耶さまは何気《なにげ》ないふうで、そんな成人《おとな》のようなことを云うもんじゃないとは仰っしゃいましたが、本統《ほんとう》は少しその天の子供が恐《おそ》ろしくもお思いでしたと、まあそう申し伝えます。
 須利耶さまは童子を十二のとき、少し離《はな》れた首都《しゅと》のある外道《げどう》[※4]の塾《じゅく》にお入れなさいました。
 童子の母さまは、一生けん命機を織って、塾料《じゅくりょう》や小遣《こづか》いやらを拵《こし》らえてお送りな
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