ん中歩きまわり、暁方《あけがた》になってから、ぐったり疲れて自分の家に帰りました。そして睡《ねむ》りました。

        *

「カン君、カン君、もう雲見の時間だよ。おいおい。カン君。」カン蛙は眼《め》をあけました。見るとブン蛙とベン蛙とがしきりに自分のからだをゆすぶっています。なるほど、東にはうすい黄金色《きんいろ》の雲の峯が美しく聳《そび》えています。
「や、君はもうゴム靴をはいてるね。どこから出したんだ。」
「いや、これはひどい難儀をして大へんな手数をしてそれから命がけほど頭を痛くして取って来たんだ。君たちにはとても持てまいよ。歩いて見せようか。そら、いい工合《ぐあい》だろう。僕がこいつをはいてすっすっと歩いたらまるで芝居《しばい》のようだろう。まるでカーイのようだろう、イーのようだろう。」
「うん、実にいいね。僕たちもほしいよ。けれど仕方ないなあ。」
「仕方ないよ。」
 雪の峯は銀色で、今が一番高い所です。けれどもベン蛙とブン蛙とは、雲なんかは見ないでゴム靴ばかり見ているのでした。
 そのとき向うの方から、一疋の美しいかえるの娘《むすめ》がはねて来てつゆくさの向うからはず
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