云いながら、野鼠はぷいっと行ってしまったのでした。
 カン蛙は、野鼠の激昂《げっこう》のあんまりひどいのに、しばらくは呆《あき》れていましたが、なるほど考えて見ると、それも無理はありませんでした。まず野鼠は、ただの鼠にゴム靴をたのむ、ただの鼠は猫《ねこ》にたのむ、猫は犬にたのむ、犬は馬にたのむ、馬は自分の金沓《かなぐつ》を貰《もら》うとき、なんとかかんとかごまかして、ゴム靴をもう一足受け取る、それから、馬がそれを犬に渡《わた》す、犬が猫に渡す、猫がただの鼠に渡す、ただの鼠が野鼠に渡す、その渡しようもいずれあとでお礼をよこせとか何とか、気味の悪い語《ことば》がついていたのでしょう、そのほか馬はあとでゴム靴をごまかしたことがわかったら、人間からよっぽどひどい目にあわされるのでしょう。それ全体を野鼠が心配して考えるのですから、とても命にさわるほどつらい訳です。けれどもカン蛙は、その立派なゴム靴を見ては、もう嬉《うれ》しくて嬉しくて、口がむずむず云うのでした。
 早速《さっそく》それを叩《たた》いたり引っぱったりして、丁度自分の足に合うようにこしらえ直し、にたにた笑いながら足にはめ、その晩一ば
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