それはきいてあげよう。去年の秋、僕が蕎麦団子《そばだんご》を食べて、チブスになって、ひどいわずらいをしたときに、あれほど親身の介抱《かいほう》を受けながら、その恩を何でわすれてしまうもんかね。」
「そうか。そんなら一つお前さん、ゴム靴を一足工夫して呉れないか。形はどうでもいいんだよ。僕がこしらえ直すから。」
「ああ、いいとも。明日の晩までにはきっと持って来てあげよう。」
「そうか。それはどうもありがとう。ではお願いするよ。さよならね。」
カン蛙は大よろこびで自分のおうちへ帰って寝《ね》てしまいました。
*
次の晩方です。
カン蛙は又畑に来て、
「野鼠さん。野鼠さん。もうし。もうし。」とやさしい声で呼びました。
野鼠はいかにも疲《つか》れたらしく、目をとろんとして、はぁあとため息をついて、それに何だか大へん憤《おこ》って出て来ましたが、いきなり小さなゴム靴をカン蛙の前に投げ出しました。
「そら、カン蛙さん。取ってお呉れ。ひどい難儀《なんぎ》をしたよ。大へんな手数をしたよ。命がけで心配したよ。僕はお前のご恩はこれで払《はら》ったよ。少し払い過ぎた位かしらん。」と
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