ン蛙とがしきりに自分のからだをゆすぶってゐます。なるほど、東にはうすい黄金《きん》色の雲の峯が美しく聳《そび》えてゐます。
「や、君はもうゴム靴をはいてるね。どこから出したんだ。」
「いや、これはひどい難儀をして大へんな手数をしてそれから命がけほど頭を痛くして取って来たんだ。君たちにはとても持てまいよ。歩いて見せようか。そら、いゝ工合《ぐあひ》だらう。僕がこいつをはいてすっすっと歩いたらまるで芝居のやうだらう。まるでカーイのやうだらう、イーのやうだらう。」
「うん、実にいゝね。僕たちもほしいよ。けれど仕方ないなあ。」
「仕方ないよ。」
雲の峯は銀色で、今が一番高い所です。けれどもベン蛙とブン蛙とは、雲なんかは見ないでゴム靴ばかり見てゐるのでした。
そのとき向ふの方から、一疋の美しいかへるの娘がはねて来てつゆくさの向ふからはづかしさうに顔を出しました。
「ルラさん、今晩は。何のご用ですか。」
「お父さんが、おむこさんを探して来いって。」娘の蛙は顔を少し平ったくしました。
「僕なんかはどうかなあ。」ベン蛙が云ひました。
「あるいは僕なんかもいゝかもしれないな。」ブン蛙が云ひました。
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