烏の北斗七星
宮沢賢治

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)判《わか》らない

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二|疋《ひき》
−−

 つめたいいぢの悪い雲が、地べたにすれすれに垂れましたので、野はらは雪のあかりだか、日のあかりだか判《わか》らないやうになりました。
 烏《からす》の義勇艦隊は、その雲に圧《お》しつけられて、しかたなくちよつとの間、亜鉛《とたん》の板をひろげたやうな雪の田圃《たんぼ》のうへに横にならんで仮泊といふことをやりました。
 どの艦《ふね》もすこしも動きません。
 まつ黒くなめらかな烏の大尉、若い艦隊長もしやんと立つたまゝうごきません。
 からすの大監督はなほさらうごきもゆらぎもいたしません。からすの大監督は、もうずゐぶんの年老《としよ》りです。眼が灰いろになつてしまつてゐますし、啼《な》くとまるで悪い人形のやうにギイギイ云《い》ひます。
 それですから、烏の年齢《とし》を見分ける法を知らない一人の子供が、いつか斯《か》う云つたのでした。
「おい、この町には咽喉《のど》のこはれた烏が二|疋《ひき》ゐるんだよ。おい。
次へ
全12ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング