」
これはたしかに間違ひで、一疋しか居《をり》ませんでしたし、それも決してのどが壊れたのではなく、あんまり永い間、空で号令したために、すつかり声が錆《さ》びたのです。それですから烏の義勇艦隊は、その声をあらゆる音の中で一等だと思つてゐました。
雪のうへに、仮泊といふことをやつてゐる烏の艦隊は、石ころのやうです。胡麻《ごま》つぶのやうです。また望遠鏡でよくみると、大きなのや小さなのがあつて馬鈴薯《ばれいしよ》のやうです。
しかしだんだん夕方になりました。
雲がやつと少し上の方にのぼりましたので、とにかく烏の飛ぶくらゐのすき間ができました。
そこで大監督が息を切らして号令を掛けます。
「演習はじめいおいつ、出発」
艦隊長烏の大尉が、まつさきにぱつと雪を叩《たた》きつけて飛びあがりました。烏の大尉の部下が十八隻、順々に飛びあがつて大尉に続いてきちんと間隔をとつて進みました。
それから戦闘艦隊が三十二隻、次々に出発し、その次に大監督の大艦長が厳かに舞ひあがりました。
そのときはもうまつ先の烏の大尉は、四へんほど空で螺旋《うづ》を巻いてしまつて雲の鼻つ端まで行つて、そこからこんど
前へ
次へ
全12ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング