はまつ直《す》ぐに向ふの杜《もり》に進むところでした。
二十九隻の巡洋艦、二十五隻の砲艦が、だんだんだんだん飛びあがりました。おしまひの二隻は、いつしよに出発しました。こゝらがどうも烏の軍隊の不規律なところです。
烏の大尉は、杜のすぐ近くまで行つて、左に曲がりました。
そのとき烏の大監督が、「大砲撃てつ。」と号令しました。
艦隊は一斉に、があがあがあがあ、大砲をうちました。
大砲をうつとき、片脚をぷんとうしろへ挙げる艦《ふね》は、この前のニダナトラの戦役での負傷兵で、音がまだ脚の神経にひびくのです。
さて、空を大きく四へん廻つたとき、大監督が、
「分れつ、解散」と云ひながら、列をはなれて杉の木の大監督官舎におりました。みんな列をほごしてじぶんの営舎に帰りました。
烏《からす》の大尉は、けれども、すぐに自分の営舎に帰らないで、ひとり、西のはうのさいかちの木に行きました。
雲はうす黒く、たゞ西の山のうへだけ濁つた水色の天の淵《ふち》がのぞいて底光りしてゐます。そこで烏仲間でマシリイと呼ぶ銀の一つ星がひらめきはじめました。
烏の大尉は、矢のやうにさいかちの枝に下《お》りまし
前へ
次へ
全12ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング