したわけか片あしにリボンのやうにはんけちを結んでゐた。そして両あしをきちんと集めて少しかゞむやうにしてしばらくじっとしてゐた。私はたしかに祈りだと思った。
私はもういつか小屋を出てゐた。全く小屋はいつかなくなってゐた。うすあかりが青くけむり東のそらには日本の春の夕方のやうに鼠《ねずみ》色の重い雲が一杯に重なってゐた。そこに紫苑《しをん》の花びらが羽虫のやうにむらがり飛びかすかに光って渦を巻いた。
みんなはだれもパッと顔をほてらせてあつまり手を斜に東の空へのばして
「ホッホッホッホッ。」と叫んで飛びあがった。私は花椰菜《はなやさい》の中ですっぱだかになってゐた。私のからだは貝殻よりも白く光ってゐた。私は感激してみんなのところへ走って行った。
そしてはねあがって手をのばしてみんなと一緒に
「ホッホッホッホッ」と叫んだ。
たしかに紫苑《しをん》のはなびらは生きてゐた。
みんなはだんだん東の方へうつって行った。
それから私は黒い針葉樹の列をくぐって外に出た。
白崎特務|曹長《さうちゃう》がそこに待ってゐた。そして二人はでこぼこの丘の斜面のやうなところをあるいてゐた。柳の花がきんき
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