化物丁場
宮沢賢治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)黄金《きん》の

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)割合|空《す》いて

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)するん[#「ん」は小書き]だ、
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 五六日続いた雨の、やっとあがった朝でした。黄金《きん》の日光が、青い木や稲を、照してはゐましたが、空には、方角の決まらない雲がふらふら飛び、山脈も非常に近く見えて、なんだかまだほんたうに霽《は》れたといふやうな気がしませんでした。
 私は、西の仙人《せんにん》鉱山に、小さな用事がありましたので、黒沢尻《くろさはじり》で、軽便鉄道に乗りかへました。
 車室の中は、割合|空《す》いて居《を》りました。それでもやっぱり二十人ぐらゐはあったでせう。がやがや話して居りました。私のあとから入って来た人もありました。
 話はここでも、本線の方と同じやうに、昨日までの雨と洪水の噂《うはさ》でした。大抵南の方のことでした。狐禅寺《こぜんじ》では、北上《きたかみ》川が一丈六尺増したと誰《たれ》かが云ひました。宮城の品
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