ったんです。すぐその場からです。技師がまるで眼を真赤にして、別段な訳もないのに怒鳴ったり、叱《しか》ったりして歩いたんです。滑った砂利を積み直したんです。けれどもどうしたって誰も仕事に実が入りませんや。さうでせう。一度別段の訳もなく崩れたのならいづれ又格別の訳もなしに崩れるかもしれない、それでもまあ仕事さへしてゐれゃ賃金は向ふぢゃ払ひますからね、いくらつまらないと思っても、技師がさうしろって云ふことを、その通りやるより仕方ありませんや。ハッハッハ。一寸《ちょっと》。」
その工夫の人は立ちあがって窓から顔を出し手をかざして行手の線路をじっと見てゐましたが、俄《には》かに下の方へ「よう、」と叫んで、挙手の礼をしました。私も、窓から顔を出して見ましたら、一人の工夫がシャベルを両手で杖《つゑ》にして、線路にまっすぐに立ち、笑ってこっちを見てゐました。それもずんずんうしろの方へ遠くなってしまひ、向ふには栗駒《くりこま》山が青く光って、カラッとしたそらに立ってゐました。私たちは又腰掛けました。
「今度の積み直しも又八日もかゝつたんですか。」私は尋ねました。
「いゝえ、その時は前の半分もかゝらなか
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