ちが赤い毛布でこさへたシャツを着たり、水で凍えないために、茶色の粗羅紗《そらしゃ》で厚く足を包んだりしてゐる様子を眼《め》の前に思ひ浮べました。
「ほんたうにお容易ぢゃありませんね。」
「なあに、さうやって、やっと積み上ったんです。進行検査にも間に合ったてんで、監督たちもほっとしてゐたやうでした。私どももそのひどい仕事で、いくらか割増も貰《もら》ふ筈《はず》でしたし、明日からの仕事も割合楽になるといふ訳でしたから、その晩は実は、春木場で一杯やったんです。それから小舎《こや》に帰って寝ましたがね、いゝ晩なんです、すっかり晴れて庚申《かうしん》さんなども実にはっきり見えてるんです。あしたは霜がひどいぞ、砂利も悪くすると凍るぞって云ひながら、寝たんです。すると夜中になって、さう、二時過ぎですな、ゴーッと云ふやうな音が、夢の中で遠くに聞えたんです。眼をさましたのが私たちの小屋に三四人ありました。ぼんやりした黄いろのランプの下へ頭をあげたまゝ誰《たれ》も何とも云はないんです。だまってその音のした方へ半分からだを起してほかのものの顔ばかり見てゐたんです。すると俄《には》かに監督が戸をガタッとあけて
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