厭《いや》ぢゃないのだと私は思ひました。
「それが、又、崩れたのですか。」私は尋ねました。
「崩れたのです。それも百人からの人夫で、八日かゝってやったやつです。積み直しといっても大部分は雫石《しづくいし》の河原から、トロで運んだんです。前に崩れた分もそっくり使って。だからずうっと脚がひろがっていかにも丈夫さうになったんです。」
「中々容易ぢゃなかったんでせう。」
「えゝ、とても。鉄道院から進行検査があるので請負の方の技師のあせり様ったらありませんや、従って監督は厳しく急ぎますしね、毎日天気でカラッとして却《かへ》って風は冷たいし、朝などは霜が雪のやうでした。そこを砂利を、掘っては、掘っては、積んでは、トロを押したもんです。」
私は、あのすきとほった、つめたい十一月の空気の底で、栗《くり》の木や樺《かば》の木もすっかり黄いろになり、四方の山にはまっ白に雪が光り、雫石《しづくいし》川がまるで青ガラスのやうに流れてゐる、そのまっ白な広い河原を小さなトロがせはしく往《い》ったり来たりし、みんなが鶴嘴《つるはし》を振り上げたり、シャベルをうごかしたりする景色を思ひうかべました。それからその人た
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