いいよ。入ろう。』
とネリに云った。
ネリは悦《よろこ》んで飛びあがり、二人は手をつないで木戸口に来たんだ。ペムペルはだまって二つのトマトを出したんだ。
番人は『ええ、いらっしゃい。』と言いながら、トマトを受けとり、それから変な顔をした。
しばらくそれを見つめていた。
それから俄《にわ》かに顔が歪《ゆが》んでどなり出した。
『何だ。この餓鬼《がき》め。人をばかにしやがるな。トマト二つで、この大入の中へ汝《おまえ》たちを押《お》し込《こ》んでやってたまるか。失《う》せやがれ、畜生《ちくしょう》。』
そしてトマトを投げつけた。あの黄のトマトをなげつけたんだ。その一つはひどくネリの耳にあたり、ネリはわっと泣き出し、みんなはどっと笑ったんだ。ペムペルはすばやくネリをさらうように抱《だ》いて、そこを遁《に》げ出した。
みんなの笑い声が波のように聞えた。
まっくらな丘の間まで遁げて来たとき、ペムペルも俄かに高く泣き出した。ああいうかなしいことを、お前はきっと知らないよ。
それから二人はだまってだまってときどきしくりあげながら、ひるの象について来たみちを戻《もど》った。
それからペ
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