て眼を擦《こす》った。向うは大きな町なんだ。灯《ひ》が一杯《いっぱい》についている。それからすぐ眼の前は平らな草地になっていて、大きな天幕《テント》がかけてある。天幕は丸太で組んである。まだ少しあかるいのに、青いアセチレンや、油煙《ゆえん》を長く引くカンテラがたくさんともって、その二階には奇麗《きれい》な絵看板がたくさんかけてあったのだ。その看板のうしろから、さっきからのいい音が起っていたのだ。看板の中には、さっきキスを投げた子が、二|疋《ひき》の馬に片っ方ずつ手をついて、逆立《さかだ》ちしてる処《ところ》もある。さっきの馬はみなその前につながれて、その他《ほか》にだって十五六疋ならんでいた。みんなオートを食べていた。
おとなや女や子供らが、その草はらにたくさん集って看板を見上げていた。
看板のうしろからは、さっきの音が盛《さか》んに起った。
けれどもあんまり近くで聞くと、そんなにすてきな音じゃない。
ただの楽隊だったんだい。
ただその音が、野原を通って行く途中《とちゅう》、だんだん音がかすれるほど、花のにおいがついて行ったんだ。
白い四角な家も、ゆっくりゆっくり中へはいっ
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