その下からは大きな灰いろの四本の脚《あし》が、ゆっくりゆっくり上ったり下ったりしていたのだ。
ペムペルとネリとは、黒人はほんとうに恐《こわ》かったけれど又|面白《おもしろ》かった。四角なものも恐かったけれど、めずらしかった。そこでみんなが過ぎてから、二人は顔を見合せた。そして
『ついて行こうか。』
『ええ、行きましょう。』と、まるでかすれた声で云ったのだ。そして二人はよほど遠くからついて行った。
黒人たちは、時々何かわからないことを叫《さけ》んだり、空を見ながら跳《は》ねたりした。四本の脚はゆっくりゆっくり、上ったり下ったりしていたし、時々ふう、ふうという呼吸の音も聞えた。
二人はいよいよ堅《かた》く手を握《にぎ》ってついて行った。
そのうちお日さまは、変に赤くどんよりなって、西の方の山に入ってしまい、残りの空は黄いろに光り、草はだんだん青から黒く見えて来た。
さっきからの音がいよいよ近くなり、すぐ向うの丘のかげでは、さっきのらしい馬のひんひん啼《な》くのも鼻をぶるるっと鳴らすのも聞えたんだ。
四角な家の生物が、脚を百ぺん上げたり下げたりしたら、ペムペルとネリとはびっくりして眼を擦《こす》った。向うは大きな町なんだ。灯《ひ》が一杯《いっぱい》についている。それからすぐ眼の前は平らな草地になっていて、大きな天幕《テント》がかけてある。天幕は丸太で組んである。まだ少しあかるいのに、青いアセチレンや、油煙《ゆえん》を長く引くカンテラがたくさんともって、その二階には奇麗《きれい》な絵看板がたくさんかけてあったのだ。その看板のうしろから、さっきからのいい音が起っていたのだ。看板の中には、さっきキスを投げた子が、二|疋《ひき》の馬に片っ方ずつ手をついて、逆立《さかだ》ちしてる処《ところ》もある。さっきの馬はみなその前につながれて、その他《ほか》にだって十五六疋ならんでいた。みんなオートを食べていた。
おとなや女や子供らが、その草はらにたくさん集って看板を見上げていた。
看板のうしろからは、さっきの音が盛《さか》んに起った。
けれどもあんまり近くで聞くと、そんなにすてきな音じゃない。
ただの楽隊だったんだい。
ただその音が、野原を通って行く途中《とちゅう》、だんだん音がかすれるほど、花のにおいがついて行ったんだ。
白い四角な家も、ゆっくりゆっくり中へはいって行ってしまった。
中では何かが細い高い声でないた。
人はだんだん増えて来た。
楽隊はまるで馬鹿のように盛んにやった。
みんなは吸いこまれるように、三人五人ずつ中へはいって行ったのだ。
ペムペルとネリとは息をこらして、じっとそれを見た。
『僕たちも入ってこうか。』ペムペルが胸をどきどきさせながら云った。
『入りましょう』とネリも答えた。
けれども何だか二人とも、安心にならなかったのだ。どうもみんなが入口で何か番人に渡《わた》すらしいのだ。
ペムペルは少し近くへ寄って、じっとそれを見た。食い付くように見ていたよ。
そしたらそれはたしかに銀か黄金《きん》かのかけらなのだ。
黄金をだせば銀のかけらを返してよこす。
そしてその人は入って行く。
だからペムペルも黄金をポケットにさがしたのだ。
『ネリ、お前はここに待っといで。僕|一寸《ちょっと》うちまで行って来るからね。』
『わたしも行くわ。』ネリは云ったけれども、ペムペルはもうかけ出したので、ネリは心配そうに半分泣くようにして、又看板を見ていたよ。
それから僕は心配だから、ネリの処に番しようか、ペムペルについて行こうか、ずいぶんしばらく考えたけれども、いくらそこらを飛んで見ても、みんな看板ばかり見ていて、ネリをさらって行きそうな悪漢は一人も居ないんだ。
そこで安心して、ペムペルについて飛んで行った。
ペムペルはそれはひどく走ったよ。四日のお月さんが、西のそらにしずかにかかっていたけれど、そのぼんやりした青じろい光で、どんどんどんどんペムペルはかけた。僕は追いつくのがほんとうに辛《つら》かった。眼がぐるぐるして、風がぶうぶう鳴ったんだ。樺《かば》の木も楊《やなぎ》の木も、みんなまっ黒、草もまっ黒、その中をどんどんどんどんペムペルはかけた。
それからとうとうあの果樹園にはいったのだ。
ガラスのお家が月のあかりで大へんなつかしく光っていた。ペムペルは一寸立ちどまってそれを見たけれども、又走ってもうまっ黒に見えているトマトの木から、あの黄いろの実のなるトマトの木から、黄いろのトマトの実を四つとった。それからまるで風のよう、あらしのように汗と動悸《どうき》で燃えながら、さっきの草場にとって返した。僕も全く疲《つか》れていた。
ネリはちらちらこっちの方を見てばかりいた。
けれどもペムペルは、
『さあ、
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