生の狐について行きました。生徒らは小さくなって、私を見送りました。みんなで五十人は居たでしょう。私たちが過ぎてから、みんなそろそろ立ちあがりました。
 先生はふっとうしろを振《ふ》りかえりました。そして強く命令しました。
「わなをみんな解け。こんなことをして学校の名誉に関するじゃないか。今に主謀者《しゅぼうしゃ》は処罰するぞ。」
 生徒たちはくるくるはねまわってその草わなをみんなほどいて居《お》りました。
 私は向うに、七尺ばかりの高さのきれいな野ばらの垣根《かきね》を見ました。垣根の長さは十二間はたしかにあったでしょう。そのまん中に入り口があって、中は一段高くなっていました。私は全くそれを垣根だと思っていたのです。ところが先生が
「さあ、どうかお入り下さい。」と叮寧《ていねい》に云うものですから、その通り一足中へはいりましたら、全く愕《おどろ》いてしまいました。そこは玄関《げんかん》だったのです。中はきれいに刈《か》り込んだみじかい芝生《しばふ》になっていてのばらでいろいろしきりがこさえてありました。それに靴《くつ》ぬぎもあれば革《かわ》のスリッパもそろえてあり馬の尾を集めてこさえた
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