鏡のようになって走り、風は吹《ふ》いて来て、その緑いろの壁はところどころゆれました。
武巣という子がまるで息をはあはあして入って来ました。さっき校長室のガラス戸棚《とだな》の中に入っていた、わなの標本を五つとも持って来たのです。それを先生の机の上に置いてしまうと、その子は席に戻《もど》り、先生はその一つを手にとりあげました。
「これはアメリカ製でホックスキャッチャーと云います。ニッケル鍍金《めっき》でこんなにぴかぴか光っています。ここの環《わ》の所へ足を入れるとピチンと環がしまって、もうとれなくなるのです。もちろんこの器械は鎖《くさり》か何かで太い木にしばり付けてありますから、実際|一遍《いっぺん》足をとられたらもうそれきりです。けれども誰《たれ》だってこんなピカピカした変なものにわざと足を入れては見ないのです。」
狐の生徒たちはどっと笑いました。狐の校長さんも笑いました。狐の先生も笑いました。私も思わず笑いました。このわなの絵は外国でも日本でも種苗《しゅびょう》目録のおしまいあたりにはきっとついていて、然《しか》も効力もあるというのにどう云うわけか一寸不思議にも思いました。
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