」
三年担任の武村先生も一寸私に頭を下げて、それから校長に会釈《えしゃく》して教員室の方へ出て行きました。
校長さんの狐《きつね》は下を向いて二三度くんくん云ってから、新らしく紅茶を私に注《つ》いでくれました。そのときベルが鳴りました。午后《ごご》の課業のはじまる十分前だったのでしょう。校長さんが向うの黒塗《くろぬ》りの時間表を見ながら云いました。
「午后は第一学年は修身と護身、第二学年は狩猟《しゅりょう》術、第三学年は食品化学と、こうなっていますがいずれもご参観になりますか。」
「さあみんな拝見いたしたいです。たいへん面白《おもしろ》そうです。今朝《けさ》からあがらなかったのが本当に残念です。」
「いや、いずれ又《また》おいでを願いましょう。」
「護身というのは修身といっしょになっているのですか。」
「ええ昨年までは別々でやりましたが、却って結果がよくないようです。」
「なるほどそれに狩猟だなんて、ずいぶん高尚《こうしょう》な学科もおやりですな。私の方ではまあ高等専門学校や大学の林科にそれがあるだけです。」
「ははん、なるほど。けれどもあなたの方の狩猟と、私の方の狩猟とは、内容は
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