なさったときはやしたそうだが、又私もここで聞いていたが、どうしてそんなことをしたか。」
「わかりません。」
「わからないだろう。全くわからないもんだ。わかったらまさかお前たちはそんなことしないだろうな。では今日の所は、私からよくお客さまにお詫《わび》を申しあげて置くから、これからよく気をつけなくちゃいけないよ。いいか。もう決して学校で禁じてあることをしてはならんぞ。」
「はい、わかりました。」
「では帰って遊んでよろしい。」校長さんは今度は私に向きました。担任の先生はきちんとまだ立っています。
「只今《ただいま》のようなわけで、至って無邪気《むじゃき》なので、決して悪気があって笑ったりしたのではないようでございますから、どうかおゆるしをねがいとう存じます。」
私はもちろんすぐ云いました。
「どう致《いた》しまして。私こそいきなりおうちの運動場へ飛び込《こ》んで来て、いろいろ失礼を致しました。生徒さん方に笑われるのなら却《かえ》って私は嬉《うれ》しい位です。」
校長さんは眼鏡《めがね》を拭《ふ》いてかけました。
「いや、ありがとうございます。おい武村君。君からもお礼を申しあげてくれ。」
三年担任の武村先生も一寸私に頭を下げて、それから校長に会釈《えしゃく》して教員室の方へ出て行きました。
校長さんの狐《きつね》は下を向いて二三度くんくん云ってから、新らしく紅茶を私に注《つ》いでくれました。そのときベルが鳴りました。午后《ごご》の課業のはじまる十分前だったのでしょう。校長さんが向うの黒塗《くろぬ》りの時間表を見ながら云いました。
「午后は第一学年は修身と護身、第二学年は狩猟《しゅりょう》術、第三学年は食品化学と、こうなっていますがいずれもご参観になりますか。」
「さあみんな拝見いたしたいです。たいへん面白《おもしろ》そうです。今朝《けさ》からあがらなかったのが本当に残念です。」
「いや、いずれ又《また》おいでを願いましょう。」
「護身というのは修身といっしょになっているのですか。」
「ええ昨年までは別々でやりましたが、却って結果がよくないようです。」
「なるほどそれに狩猟だなんて、ずいぶん高尚《こうしょう》な学科もおやりですな。私の方ではまあ高等専門学校や大学の林科にそれがあるだけです。」
「ははん、なるほど。けれどもあなたの方の狩猟と、私の方の狩猟とは、内容は
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