み》はないのだ。ぼくはどこへも相談《そうだん》に行くとこがない。学校へ行ったってだめだ。……先生はああ倒れたのか、苗《なえ》が弱くはなかったかな、あんまり力を落《おと》してはいけないよ、ぐらいのことを云って笑《わら》うだけのもんだ。日誌《にっし》、日誌、ぼくはこの書きつける日誌がなかったら今夜どうしているだろう。せきはとめたし落し口は切ったし田のなかへはまだ入られないしどうすることもできずだまってあのぼしょぼしょしたりまたおどすように強くなったりする雨の音を聞いていなければならないのだ。いったいこの雨があしたのうちに晴れるだなんてことがあるだろうか。
ああどうでもいい、なるようになるんだ。あした雨が晴れるか晴れないかよりも、今夜ぼくが…………を一足つくれることのほうがよっぽどたしかなんだから。
[#ここで字下げ終わり]
底本:「イーハトーボ農学校の春」角川文庫、角川書店
1996(平成8)年3月25日初版発行
底本の親本:「新校本 宮澤賢治全集」筑摩書房
1995(平成7)年5月
※底本は、一つ目の「猿ヶ石」の「ヶ」(区点番号5−86)は大振りに、二つ目の「猿ヶ石」の
前へ
次へ
全31ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング