と大声でそのきれいさを叫《さけ》んだかも知れない。僕は却《かえ》ってたんぽぽの毛のほうを好きだ。夕陽《ゆうひ》になんか照《て》らされたらいくら立派だか知れない。
今日の実習は陸稲播《おかぼま》きで面白《おもしろ》かった。みんなで二うねずつやるのだ。ぼくは杭《くい》を借《か》りて来て定規《じょうぎ》をあてて播いた。種子《しゅし》が間隔《かんかく》を正しくまっすぐになった時はうれしかった。いまに芽《め》を出せばその通り青く見えるんだ。学校の田のなかにはきっとひばりの巣《す》が三つ四つある。実習している間になんべんも降《お》りたのだ。けれども飛《と》びあがるところはつい見なかった。ひばりは降りるときはわざと巣からはなれて降りるから飛びあがるとこを見なければ巣のありかはわからない。
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一千九百二十五年五月六日
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今日学校で武田《たけだ》先生から三年生の修学旅行《しゅうがくりょこう》のはなしがあった。今月の十八日の夜十時で発《た》って二十三日まで札幌《さっぽろ》から室蘭《むろらん》をまわって来るのだそうだ。先生は手に取《と》るように向《むこ》うの景色《けしき》だの見て来ることだの話した。
津軽海峡《つがるかいきょう》、トラピスト、函館《はこだて》、五稜郭《ごりょうかく》、えぞ富士《ふじ》、白樺《しらかば》、小樽《おたる》、札幌の大学、麦酒《ビール》会社、博物館《はくぶつかん》、デンマーク人の農場《のうじょう》、苫小牧《とまこまい》、白老《しらおい》のアイヌ部落《ぶらく》、室蘭《むろらん》、ああ僕《ぼく》は数《かぞ》えただけで胸《むね》が踊《おど》る。五時間目には菊池《きくち》先生がうちへ宛《あ》てた手紙を渡《わた》して、またいろいろ話された。武田先生と菊池先生がついて行かれるのだそうだ。
行く人が二十八人にならなければやめるそうだ。それは県《けん》の規則《きそく》が全級《ぜんきゅう》の三分の一|以上《いじょう》参加《さんか》するようになってるからだそうだ。けれども学校へ十九円|納《おさ》めるのだしあと五円もかかるそうだから。きっと行けると思う人はと云ったら内藤《ないとう》君や四人だけ手をあげた。みんな町の人たちだ。うちではやってくれるだろうか。父が居《い》ないので母へだけ話したけれども母は心配《しんぱい》そうに眼《め》をあげた
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