して舞台へおあがりになったのかな。」
 ネネムはその顔をじっと見ました。それこそはあの飢饉《ききん》の年マミミをさらった黒い男でした。
「黙《だま》れ。忘れたか。おれはあの飢饉の年の森の中の子供だぞ。そしておれは今は世界裁判長だぞ。」
「それは大へんよろしい。それだからわしもあの時男の子は強いし大丈夫《だいじょうぶ》だと云ったのだ。女の子の方は見ろ。この位立派になっている。もうスタアと云うものになってるぞ。お前も裁判長ならよく裁判して礼をよこせ。」
「しかしお前は何故《なぜ》しんこ細工を興業するか。」
「いや。いやいややや。それは実に野蛮《やばん》の遺風だな。この世界がまだなめくじでできていたころの遺風だ。」
「するとお前の処《ところ》じゃしんこ細工の興業はやらんな。」
「勿論《もちろん》さ。おれのとこのはみんな美学にかなっている。」
「いや。お前は偉《えら》い。それではマミミを返して呉れ。」
「いいとも。連れて行きなさい。けれども本人が望みならまた寄越《よこ》して呉れ。」
「うん。」
 どうです。とうとうこんな変なことになりました。これというのもテジマアのばけもの格[#「ばけもの格」
前へ 次へ
全61ページ中51ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング