た。
 するとどうもネネムも検事もだれもかれもみんな愕《おどろ》いてしまったことは、いつの間にか、どうして出て来たのか、すてきに大きな青いばけものがテーブルに置かれた皿の上に、あぐらをかいて、椅子に座った若ばけものを見おろしてすまし込んでいるのでした。青いばけものは、しずかにみんなの方を向きました。眼のまわりがまっ赤です。俄《にわか》に見物がどっと叫《さけ》びました。
「テン・テンテンテン・テジマア! うまいぞ。」
「ほう、素敵《すてき》だぞ。テジマア!」
 テジマアと呼ばれた皿の上の大きなばけものは、顔をしずかに又廻して、椅子に座ったわかばけものの方を向きました。そして二人はまるで二匹の獅子《しし》のように、じっとにらみ合いました。見物はもうみんな総立ちです。
「テジマア! 負けるな。しっかりやれ。」
「しっかりやれ。テジマア! 負けると食われるぞ。」こんなような大さわぎのあとで、こんどはひっそりとなりました。そのうちに椅子に座った若ばけものは眼《め》が痛くなったらしく、とうとうまばたきを一つやりました。皿の上のテジマアはじりじりと顔をそっちへ寄せて行きます。若ばけものは又五つばかり
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