可なくして、妄《みだ》りに向側に出現いたしてはならんぞ。」
「かしこまりました。ありがとうございます。」そのばけものも引っ込みました。
「実に名断だ。いい判決だね。」とみんなささやき合いました。その時向うの窓がガタリと開いて
「どうだ、いい裁判長だろう。みんな感心したかい。」と云う声がしました。それはさっきの灰色の一メートルある顔、フゥフィーボー先生でした。
「ブラボオ。フゥフィーボー博士。ブラボオ。」と判事も検事もみんな怒鳴《どな》りました。その時はもう博士の顔は消えて窓はガタンとしまりました。
 そこでネネムは自分の室《へや》に帰って白いちぢれ毛のかつらを除《と》りました。それから寝《ね》ました。
 あとはあしたのことです。

   三、ペンネンネンネンネン・ネネムの巡視《じゅんし》

 ばけもの世界裁判長になったペンネンネンネンネン・ネネムは、次の朝六時に起きて、すぐ部下の検事を一人呼びました。
「今日は何時に公判の運びになっているか。」
「本日もやはり晩の七時から二件だけございます。」
「そうか。よろしい。それでは今朝は八時から世界長に挨拶《あいさつ》に出よう。それからすぐ巡視
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